「何故、我々は大学野球に取り組むのか」

大学の指導者として、ここ数年日米野球やワールドカップ、ユニバーシアード大会などの国際大会を経験させて頂きましたが、世界の野球を見れば見る程、日本の野球は素晴らしいと強く実感しています。『野球を通じての人間形成』こそ、最大の目的であり、それができる事が日本の野球の素晴らしさです。欧米諸国のスポーツの在り方は、基本的に地域と密着した、地域スポーツやクラブスポーツとして存在します。日本の中学校・高校のように、部活動の一環として存在するスポーツは日本特有のものです。教育機関である学校とスポーツが融合し、スポーツを教育として捉え、子どもの育成の場として考えられる日本のシステムは、世界に誇れる素晴らしいものであると実感しています。

 

先日行われたユニバーシアード大会のサポートスタッフとして韓国に滞在させて頂いている際、韓国アマチュア野球連盟の方々に話をお伺いできるチャンスを、数多くいただきました。その際にお伺いした内容の中には、韓国の高校野球の指導者のお給料は、選手の保護者が支払っているとの事もあり、指導者が選手に厳しく指導しにくいという現実があるとのお話もありました。韓国でも日本の部活動のようなシステムを作り上げようという動きもあったようですが、実現には遠く及ばなかったそうです。(この話の内容は確認が必要な点もありますが。ほぼ正確な情報だと思います。)

 

又、世界大会を経験する中で、各国の選手たちのマナーや取り組み方を見てきましたが、そこに、『教育』『躾』といったものは感じられませんでした。なぜスポーツをするのか?という問いに対しては、日本の中でも世界各国においてもさまざまな意見があるのは当然です。『スポーツは楽しむもの』という捉え方もあるでしょう。野球界では『エンジョイベースボール』といった言葉もあります。勿論それらの言葉には深い意味や、色々な受け止め方があると思いますが、私は学生スポーツは人間の心と体の健康を作るものであり、その先には必ず教育や躾があってほしいと願います。

 

スポーツは平和の象徴でもあります。戦争・紛争地域にスポーツは存在しません。特に、若者の有り余るエネルギーの発散の場所としても、スポーツは大きな役割を果たしていると思います。中・高生にその場がなかったとしたら、私は多くの若者達がそのエネルギーを使う場がなく、非行に走ることさえ生じてしまうのではないかと考えます。『野球をやっていなかったら、私は今こうして健全に成長していなかったと思う。非行に走ってしまっていたと思う。』というような話を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。日本は国としてスポーツの文化をより発展させるべきです。スポーツには健全な青少年・少女達を育成し、国の治安を生む力があると私は思っています。それゆえに、先日発足した「スポーツ庁」をより発展させ、実益を伴う組織にしていく事が現代社会に課せられた使命であると思います。

 

まず我々にできる事は、國學院大學野球部を強くし、大学の活性化の為に尽力する。その先には、東都リーグの発展の為。その次には大学野球発展の為。その次には野球界の発展の為。その次がスポーツ界の発展の為。さらには、スポーツ界が発展し、それを教育界、学校機関へ。その好循環を生み、最終的には社会の為、世の中の為につながっていく。そういう思いを持って我々は活動すべきだと思っています。そういう思いと、影響力を持った人材が、國學院大學野球部から生まれてほしいと願いながら、チームを強化しています。

 

又、その人材育成は世界基準で考えなければいけないでしょう。そういった思いを伝えていくためには『発信力』が必要であり、その為に我々は、まず自分達が勝つ事が必要です。自分たちが強くなり勝たなければ、伝える力は生まれません。勝つことはスタートラインに立つことです。最高学府である大学で、又、日本一レベルが高いと言われる東都リーグで野球をさせて頂いている我々には、そういった使命があると思っています。勝つことの先に大きな志を持って、学生達には野球に、大学生活に取り組ませたいと思います。

 

平成27年11月25日

國學院大學野球部監督 鳥山 泰孝