『公の心』~スポーツと教育の力が国作り・人作り~

チーム作りをしていると、『公の心』と『強い個人』という2つの要素のバランスの重要性を痛感します。
その上で、今回は『公の心』に視点をおいて考えを述べたいと思います。

 

私は野球に育てられてきた人間です。大学野球の監督をさせて頂いているわけですから、何らかの形で育てて頂いている恩を社会に還元していかなければいけないと常々強く思っています。
野球界、スポーツ界をいかに充実させるか、ということに視点をおいて考える時間が増えてきました。

 

修徳高校の監督時代、小中学生の野球を見に行かせて頂く機会があった時に感じたことがありました。
河川敷の周辺地域では、土日を使って数多くのチームが活動していました。
リトル・シニアリーグ、ボーイズリーグ、中体連の野球部、軟式クラブチーム…。数えきれないほどのチームが多くのボランティア指導者の下で汗を流していました。
ある時に、町のお菓子屋さんで万引きをしていた中学生集団を注意した私は、ふと思いました。
『週末や放課後に、野球ができる環境がなかったら、いや野球とは言わず、若者が熱中する事に出会える環境がなかったら、多くの若者が非行に走ってしまうのではないか』 さらに私は思いました。
『日本の教育の質の良さは治安の良さにつながっている。日本の治安の良さを守るためにも、やはり教育環境を充実させることが大切。日本の教育環境の良さの一つは、部活動という文化にある。』そう確信しました。

 

又、3人の幼い子供がいる私は、近所の子供たちが色々な『習い事』をする姿を見てきました。その習い事もまた、部活動とともに子供の教育に大きな役割を果たしていると感じております。
『スポーツ』や『習いごと』の中で、礼節を学び、人生を学ぶ。国作り根元である『人作り』の環境がそこにあります。
『スポーツ』と『習い事』の環境を充実させることは国作りを支える大きな力になると思います。
だからこそ日本はもっと、スポーツを文化として発展させるべきだと思います。
スポーツの発展は必ず世界の平和へ役立つはずです。その証拠に、世界の紛争地域では、スポーツが行われていません。また、教育が不十分な上に、部活動や習い事などという文化もありません。
さらに考えていくと、文化として発展させるということは、『システム』構築することだと思います。

 

そうした背景の中、我々指導者には、ついてくる言葉があります。
『土・日、休日も関係なく家庭を犠牲にして…』 河川敷で指導されている多くの指導者や高校野球の指導者は勿論のこと、教育機関に携わり部活動を指導されている先生方には、常につきまとう現実的な問題だと思います。
しかし、その多くの方々の頑張りが、日本の秩序を保ち、治安を守るために多くの役割を果たしていると思います。
この環境やシステムがなかったら…と考えると、私は大きな不安を感じます。
だからこそせめて、小中学生をボランティアで指導してくださっている方に、国がサポートできるシステムは作れないか?(そのサポートのひとつは金銭面も含みます)そのシステムを充実させることが、野球の教育環境の質を高め、健全な若者の育成や社会の発展につながるのではないかと思います。
そのためには、野球界がピラミッド式の一本化したシステムを作ること。場合によっては、指導者を本格的なライセンス制にし、指導者が国のサポートを受けられる体制作りをする「スポーツ省」の立ち上げも必要かもしれません。
ライセンス制などというと勉強をし、試験を受けなければ大変ですから嫌だという人も出てくるかもしれませんが、人を教える立場にある訳ですから、それなりの勉強をすることは絶対に必要なことだと思います。
『野球界の組織の一本化』とは、野球に携わる人であれば、多くの方々が一度は考えている事だと思います。
プロアマの垣根が取り除かれている今、今後必ず実現すべき事案であることは間違いありません。そういうことを実現するために、『公の心』が必要だと思うのです。

 

先日も、私の尊敬するある高校の監督さんが『損得で物事を考えちゃだめだよ。物事は善悪で判断しないと』とお話しくださいました。『公の心』=『善の心』とも言えると思います。 スポーツ界を発展させることは、国の発展に必ずや良い影響を与えるはずです。日本が成長すれば世界の発展、平和に必ずつながると思います。ゆえに、日本のスポーツ界は、競技人口も多く、最も注目される野球界が引っ張っていかなければならないと思っています。 チームを強くする事、人材を育成する事…。色々とある私の使命の中で、『公の心』をもって考えていくべき使命があることを強く思います。

 

〈追伸〉 東京オリンピックの開催も決まりました。『スポーツの力』を若者の教育に生かすチャンスがそこにあると思います。
国際オリンピック委員会(IOC)が掲げた「オリンピック憲章」の冒頭にも オリンピズムの根本原則
1. 近代オピンピズムの生みの親は、ピエール・ド・クーベルタンであった。氏の提案にもとづいて1894年6月、パリ国際アスレチック会議が開催された。国際オリンピック百周年に当たり、「Congress of Unity」をテーマにパリで開催された。
2. オリンピズムは、肉体と意志と知性の資質を高揚させ、均衡のとれた全人の中にこれを結合させることを目指す人生哲学である。オリンピズムが求めるのは、文化や教育とスポーツを一体にし、努力のうちに見出される喜び、よい手本となる教育的価値、普遍的・基本的・倫理的諸原則の尊重などをもとにした生き方の創造である。
3. オリンピズムの目標は、あらゆる場でスポーツを人間の調和のとれた発育に役立てることにある。またその目的は、人間の尊厳を保つことに重きを置く平和な社会の確立を奨励することにある。この趣意において、オリンピック・ムーブメントは単独または他組織の協力により、その行使し得る手段の範囲内で平和を推進する活動に従事する。 という記述があります。
是非、オリンピックが東京で行われるこの機会に、まずは、日本人である我々が、オリンピックの本質や原点に関心を持つべきではないかと思っています。
このオリンピックという機会を教育の質の向上にもつなげられるのではないでしょうか。
国民一人ひとりも、教育の在り方、さらには国の在り方について本気で考える良いタイミングが来ていると思います。
是非、この文章を読んでいただいた皆様にも『自分たちの国が今後どうしていくべきか。どうしたらもっと良い国になっていくか』を“当事者意識”を持って考え、行動していってほしいと心から願う次第です。